2019年県展受賞作品


第69回(2019年)埼玉県美術展覧会受賞作品と審査評

ページの先頭へ第1部「日本画」

審査主任 内藤五琅(ないとうごろう)
第69回県展日本画部門の一般・会員の総出品数は、178点で例年より若干の減少の傾向が見られました。それでも最高齢の出品者は88才、最年少の出品者は16才と、大変幅広い年代の方々の出品があり、嬉しい事です。
日本画の技法は、絵具ニカワ等、習得するのに時間がかかります。皆さん粘り強く制作を続けて出品されています。作品の傾向も幅広く意欲的なものが多いと感じました。審査員8人は審査を繰り返し行い、その結果、132点の入選作品を選出しました。
止むを得ず選外になった作品にも、魅力のある作品があり、次回、更なる成長を期待します。何よりも描き続ける事の大切さを、私自身痛感いたしております。来年は県展70周年を迎えて、益々皆さんの作品が数多く出品される事を大いに期待致します。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「街角の水槽」
平野民子(ひらのたみこ)
街角の水槽
町の交差点の角に設置された、大きな熱帯の海水魚の水槽を巧みに描いています。様々な魚の動きと色彩が素晴らしく、ガラス越しのスクランブル交差点の光景、吹き出す水と上部の波紋等、やわらかく表現されています。
今迄にない楽しい作品が、最高賞になりました。とても瑞々しく、魅力的な作品です。

■埼玉県議会議長賞

「大漁を待つ」
河野修一(こうのしゅういち)
大漁を待つ
朝もや漂う港の岸に引き上げられた小舟を、端正で細やかな表現で描きあげた落ち着いた作品です。淡くかすんだ冬の木立、静かな波、横木の列、無風のため垂れ下がった吹流し、何からも後ろから捉えた漁舟の表現が心に静かに沁みるような、心地良い作品です。
落着いた理知的な表現を、楽しく拝見しました。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「抱く」
山口裕美(やまぐちゆみ)
抱く
大きな猫を抱く若い男性の作品、描写力に優れたさわやかな作品です。猫の顔に口元が隠れた青年のまなざし等、計算された構図と、白描(線描きだけ)の背景の表現も美しく、県展に多く見られる、絵具を塗り込んだ人物作品とは違った、新しい作風で好感が持てます。
今年の上位三賞は、いずれも構図表現技法の独自性がはっきりと出た、良い作品が揃ったと思います。

■埼玉県美術家協会賞

「カーニバル」
今井美晴(いまいみはる)
カーニバル
耳の付いたかぶりものをした若い女性が二人、引き屋台のみやげ物をのぞき込んでいます。右奥には建物にあかりが輝き、子供らしき人物がこちらに歩いて来る様が、淡いけれども適格に描かれています。
日本か外国か、どちらにしても楽しい様子がやわらかく丁寧に描き込まれていて、好感の持てる作品です。描写力が十分に生かされています。

■埼玉県美術家協会賞

「静かな刻(とき)」
河村節子(かわむらせつこ)
静かな刻(とき)
樹々の繁る、静かな森の子径を、じっくりと描き込んだ作品です。落着いた色調と柔らかなタッチで、静けさが良く表れており、好感が持てます。
現代の日本画は、線描を越えた絵具の表現にも魅力があり、様々な個性的な表現が可能です。この作品もその魅力がよく表現されています。県展の作品でも個性的な表現の作品が多々あり、これからも楽しみです。

■FM NACK5賞

「追想」
望月咲貴(もちづきさき)
追想
淡い色彩とやわらかなマチニールの中に、蝶が舞い飛ぶ姿が生き生きと描かれた、魅力のある作品で、数ある出品作の中から、報道関係賞に選ばれました。
これからも益々制作を重ねて、美しい作品を県展に出品される事を期待致します。

■埼玉県美術家協会会長賞

「今日の仕事」
川本みつ子(かわもとみつこ)
今日の仕事
椅子に腰かけて振り返った若い女性がシルエットに近い暗い陰影の中で活き活きと描かれています。
背景の箔の光りが一層強く人物と膝に抱いた愛犬を浮かび上がらせています。椅子にタオルが掛かり、犬のシャンプーを終えて一息といった場面でしょうか?
周りを囲む植物も、表現されていて、素敵な作品です。

■高田誠記念賞

「祭り!」
中谷小雪(なかやこゆき)
祭り!
懐かしい田園風景、遠くの畔道を、巨大な花笠を中心に、祭りの一行が通り抜けて行きます。
手前の木々の繁みの中には、オオムラサキ(蝶)をはじめとする昆虫の姿が楽しく描かれていて、郷愁をそそります。作者のふるさとの夏祭りでしょうか?
こだわりを感じさせない素直な視点が、楽しい作品を生み出しました。

ページの先頭へ第2部「洋画」

審査主任 木村浩(きむらひろし)
県展洋画部の応募点数は1,177点、そのうち入選513点(入選率43.6%)の厳選となりました。
審査員11名一同、個々の作品に対し、大いなる期待を込め審査に入りました。張り詰めた空気の中、第1審から第3審まで丁寧に公平に審査をしました。審査終盤には惜しくも入選を逃した作品を数度見直して、入選と予定されている作品との格差を無くすよう努めました。
出品作品の傾向として、堅実な描写が多かったですが、時代性を加味した深味の感じられる作品も増してきて嬉しく感じました。なお、作品の中には色彩の鈍いものが少なからず有り、気になりました。
委嘱作家に限らず、惰性的なところが目につく作品も有りました。今一つの奮起を期待します。互いに更なる向上を目指して励んでいきたいものです。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「ききたい・くない」
志田翼(しだつばさ)
ききたい・くない
この作品は、パネルにしっかり地塗りを施したミクストメディア技法と思われます。力強い筆致と赤と青の色彩対比が鮮烈で総合的に力強い表現となっています。
高校生が未来への挑戦など見つめつつ、生きる方向性を模索しながら現実を見つめている様です。また描写の丁寧な箇所と、少し荒々しい筆触の背景の組み合わせに新鮮さが感じられます。

■埼玉県議会議長賞

「蓮葉(はちすは)」
川勝清美(かわかつきよみ)
蓮葉(はちすは)
この作品は現代性を感じる描写であり、秀逸でありました。色と形が柔らかく一体化して広がりのある画面となっています。この作品の魅力は新鮮な輝く色彩にもあります。葉の間におかれた赤が効果的で、独特のこなれた青緑を引きたて、見る人に心地良い印象を与える作品になっています。作品の深まりは、ひたむきに対象に向きあう姿勢から生まれたものと強く感じました。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「タイプライター」
内藤和高(ないとうかずたか)
タイプライター
机の上には古いタイプライターが置かれています。よく見ると英文が途中まで打ち込んであります。
窓の外に広がる夜の風景は外国のものでしょう。かすかに灯(ともしび)が見えます。室内と屋外の風景をうまく取り入れて物語を演出しています。
この作者は心の中に童話的な要素を持っているのでしょう。大切にしてもらいたいです。構図が見事で赤い布が画面を引き立て、見る者を引きつける、色彩が美しく受賞に相応しい傑作です。

■埼玉県美術家協会賞

「麦」
新井友江(あらいともえ)
麦
暗い壁際に置かれた麦と長方形の容器と三匹の蛾が上手く構成された作品です。色彩もよく、それぞれの表情が丹念に描かれてしっかりした構図の中に詩情豊かで好感を持てる作品になっています。今後も期待しております。

■埼玉県美術家協会賞

「春」
井田善子(いだよしこ)
春
顔の表情や曲線的に強調された体全体の形から作者の豊かな心情がよく伝わってきます。どっしりとした安定感のある構図と配色で若々しい春の息吹を表現している秀作です。白を中心とした配色に、青、赤、緑、黄が巧みに生かされ、清楚感のあふれる美しい作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「私の時間」
川上君子(かわかみきみこ)
私の時間
左手に缶ビールを持った赤いシャツを着た女がじっとこちらを見つめています。赤いシャツは情熱を、強い輪郭線からは意志の強さが伝わってきます。
この絵は自画像でしょう。人は自分を直接見ることが出来ません。鏡に映る像は虚像であると同時に逆転の実像でもあります。
作者は鏡を通して自分と向き合いそして自分に語りかけてきます。お前は誰か、この作品からはそんな作者の真っ直ぐなメッセージが伝わってくるようです。実に力強い秀作です。

■埼玉県美術家協会賞

「遥(はるか)」
光信幸恵(みつのぶゆきえ)
遥(はるか)
表現したいという思いが、素直に凝縮され、色彩も美しくまとめられています。そして、何よりもうれしいことに、本人の詩が聞こえてくることです。数少ない精神性を表現できている作品だと思われます。
今後、どの様に展開して行くのかが、とても楽しみになる作家の一人だと思われます。

■さいたま市長賞

「爽秋」
井上祐作(いのうえゆうさく)
爽秋
高原風景を背景にくつろぐ女性を愛情深く見つめ、丹念に描き込む作者の制作姿勢がよく伝わってきます。着衣等の材質感も適切に表現され存在感があります。また、顔の表情や人物全体の形を通して、作者のおだやかで豊かな心情がよく伝わってきます。優れた描写力を生かした秀作です。

■さいたま市議会議長賞

「中央停車場」
王子恵(おうじめぐみ)
中央停車場
この作品は、4枚のエッチングの作品を一つの額の中に収めるという見せ方の妙が魅力的です。
4枚の作品にそれぞれ副題が付いていて、一つ一つが別々の作品にも思える試みが好感を持ちました。
銅版画の技術も優れていて、長く経験を積んでいる作家であると思いました。これからも珠玉の様な作品の制作を続けていってください。

■さいたま市教育委員会教育長賞

「ポンプ場の見える場所-Ⅲ」
宮智英之助(みやちえいのすけ)
ポンプ場の見える場所-Ⅲ
この作品はデジタルプリントによるもので、イメージが完成するまでに何度も試行錯誤を重ねた苦労が感じられます。ポンプ場の見える場所に立ち、その光景の美しさを感じて制作されたのだと思います。ポンプ場に光が差し込み光と影のハーモニーが美しく表現されています。画面構成が巧みで作品が大きく感じられます。完成度の高い、感性豊かな作品になっています。

■朝日新聞社賞

「鮮緑」
宮下和皆(みやしたなみな)
鮮緑
生い茂る樹木の一隅に着眼し、意図的に画面を明暗に分けた手法は、ねらいが明確で効果的です。木々の葉に差し込む光を上手に捉えられており、作者の制作意図が伝わってきます。水彩顔料の透明描法と強さを助長する不透明描法を使い分けて、力量のある筆力を存分に生かした良い作品です。背景と近景の暗部に空間感が出せるように工夫されると更に良くなると思います。

■NHKさいたま放送局賞

「ミュージアム」
千葉由李華(ちばゆりか)
ミュージアム
機体、柱、床など急角度の斜線と面で構成された中に天井の曲線が心地良く、広い空間を描き出しました。作者は、その眼と心の中にデッサンの基本である水平と垂直の軸をしっかりと持っており、それを基準に動きのある画面を創り上げました。オレンジ色の主張を暖色のグラデーションがやわらげ、強い青は空間を引き締めます。説明的な描写も抑えられて、作者の意志が強く感じられる作品です。

■共同通信社賞

「トラクター」
小川吉之烝(おがわきちのじょう)
トラクター
画面に大きく描かれたトラクター。長い間働いて、納屋の片隅におかれたのか、都市化の波で仕事を終えたのか。強い色で描きたいモチーフですが、色彩を抑えた中に、より作者の心を感じます。主張そして表現の深い作品です。

■埼玉新聞社賞

「バブバブの逆襲 ~ラブリィデストロイベイビー~」
植村佳乃子(うえむらかのこ)
バブバブの逆襲 ~ラブリィデストロイベイビー~
ひと目見て、斬新、古い言い方ですが「とんでいる、ぶっとんでいる」と思いました。高校生の描いた作品とは思えない技術があり、アイデア、構築力、色使い等とても優れていて好感の持てる作品になっていました。
額のまわりの手作りのコグマの飾りも効果的だと思いました。若さを十二分に発揮できていて、見応えのある作品に仕上がっていました。
ぜひ、これから先も絵画の世界から離れる事無くいつまでも描き続けてください。来年も楽しみにしています。

■産経新聞賞

「雅」
関野惠美子(せきのえみこ)
雅
題名のとおり、「雅」という日本古来の美しさを表現したい作者の思いが伝わってくる作品です。その美しさを表現するための画面構成、モチーフの配置に作者の意図が感じられます。水彩画の透明感のある色使いにも成功しています。特に着物の柄の色彩は作品を引き立てていると思います。画面のマチエールに、もう一つ工夫があるとより強い作品になると思います。これからもっと期待できる作家です。

■テレビ埼玉賞

「朝」
鈴木精一(すずきせいいち)
朝
走り寄って来た小牛が好奇に満ちた顔でこちらを見つめています。両耳をピンと立てこちらの出方を伺っているようです。
余分なものを取り除き小牛と大地だけで自分の世界を十分に表現しています。画面構成は小牛を画面のやや左側に寄せ上から俯瞰した構図となっていて小牛の上部を切り取りやや斜に小牛を置くことで、画面に躍動感と広がりを持たせています。
白と黒のコントラストが心地良く楽しい作品に仕上がっています。

■埼玉県美術家協会会長賞

「卓上の静物」
滝本高明(たきもとたかあき)
卓上の静物
しっかりした構成で、空間のホワイト・グレーとテーブルの赤黒色とが画面を引き締めています。その中に静物が配置されていますが、それぞれの静物も良く観察され材質を感じさせるまで描き込まれています。しかし細か過ぎず大胆であり、それぞれが色彩的に響き合って美しいです。
更なる発展を期待しております。

■高田誠記念賞

「静物」
岩木秀雄(いわきひでお)
静物
古典絵画を想わせる褐色調の重厚な画面でありながら、緻密であり、空間からは透明度を感じられます。一見穏やかな印象を受けますが、筆触には強い情熱が籠められています。古い物を照らす新鮮な光、よく澄んだ陰影、いま見つめている物の放つ気配。受賞を機に、一層深まることと思います。

ページの先頭へ第3部「彫刻」

審査主任 堀尾秀樹(ほりおひでき)
第69回県展、本年度の彫刻部の受付点数は、昨年と変わらず113点でした。搬入された作品は、具象作品、抽象作品、どちらとも判断が難しいものなど様々でした。どれも作者の気持ちのこもった力作で、審査員一同、応募者の熱意を汲み、真剣に審査に臨みました。
彫刻部では近年の幅広い年齢層からの挑戦的な応募に期待を膨らませています。と、同時に作品を審査するにあたり、応募する方に再考して頂きたいと思うことがあります。
作品の応募はオリジナル作品が基本です。模倣性の高い作品や、既製品をそのまま使用したものなどが、毎年少なからずあります。ご自身の作品はどのような芸術であるのか熟考の上、出品規定を守ってのご応募をお願い致します。
また、公募展に作品を出品するということは、人に作品を見せると同時に人に託す、という事でもあります。組み立て・設置・鑑賞に際し著しい困難や危険を伴わないよう、関係者や鑑賞者の安全に配慮の上、ご応募を願い致します。
制作の動機・表現方法・材質などは人により多種多様にありますが、彫刻という芸術を通じ、ともに埼玉県展彫刻部を盛り上げて参りましょう。

■埼玉県知事賞

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「ゲート」
荒木実(あらきみのる)
ゲート
黒御影石を用いた作品。磨かれた面と割り肌の面、複雑な形が寄り添うなど、見たものが「どうやって作ったのだろう」と疑問を抱くような面白さがあります。作者の意図的な造形と石の加工技術の高さがマッチし、重厚でセンスの良い作品となっています。

■埼玉県議会議長賞

「森の道標」
斎藤勇男(さいとういさお)
森の道標
森とそこに住む2羽のふくろうが、寄り添いながら、森の番人のように、まんまるな目をして下界を見下ろしている。
長い円柱の上に、発泡スチロールを原型とした森をわずかな曲面と、樹々の重なりを絵画的に表現し、長い円柱と森の面積の割合で、森を遠く感じさせ、童話のような楽しい世界となっています。
作品テーマや素材、構成等によって、これからの展開が期待されます。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「初夏の音色」
阿部昌義(あべまさよし)
初夏の音色
首に巻かれたスカーフが初夏の風にたなびく流れに乗って、美しい横笛の音色が聴こえてくるような、さわやかな雰囲気の漂った優秀な作品と思います。
樟の木の材質感を活かした部分と、木地を生かしながら淡く彩色された頭部の組み合わせの妙が感じられます。
また、作品の水平方向の流れと、ステンレスと鉄板でシンプルに制作された台座が垂直の方向性を感じさせ、その組み合わせのバランスの良さに、作者の技量の高さを感じさせます。

■埼玉県美術家協会賞

「彗星回廊」
岡田杏(おかだきょう)
彗星回廊
彗星は天体の一種で、ほうきの形の尾を引き太陽などを焦点として楕円の双曲線を描きます。
作品はセメントの傾斜した台上にやや浮遊したテラコッタのボディで、鉄の翼が付いて、今、正にこれから太陽の周りの楕円の回廊を飛翔するかのように構成され、異質の素材を併用した宇宙空間を取り込んだ、感性豊かな作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「想」
和澄明子(わずみあきこ)
想
顔を伏せ膝を抱えた姿は、深い思いを感じ見られ、私もつい回想してしまいました。力の抜けた自然体の中に凛とした意思が感じられる、良い作品と思います。

■毎日新聞社賞

「友人」
大室悠人(おおむろはるひと)
友人
左右対称の構造をもつ人体が、左右非対称に腰に手をあてたポーズをとることで表れる作用・反作用が、丁寧によく観察して作られています。高校生ながら、奇をてらうことなく誠実に人体を追及する姿勢と作り上げる力。今後のさらなる成長に期待しています。

■埼玉県美術家協会会長賞

「やすらぎの時」
石塚郁江(いしづかいくえ)
やすらぎの時
くつろいで足をくずして座り、まどろむような表情の女性像。座ることで立像とは異なる魅力や難しさがあらわれますが、人体の構造をよく理解し、豊かで魅力ある肉付けがなされています。テラコッタ風の着色があたたかく優しい印象をひきたて、見る人をほっとさせるような作品に仕上がっています。

■高田誠記念賞

「古代の香り」
磯 廣子(いそひろこ)
古代の香り
静かに佇む座像です。単純化したフォルムで構築され、あどけない少女を彷彿とさせ、これから何かを待つような姿に感じられます。
白のコスチュームには金の縁取りがあり、古代の衣裳を想定した香気の感じられる静謐な作品です。

ページの先頭へ第4部「工芸」

審査主任 花輪滋實(はなわしげみ)
69回展の工芸の一般の搬入数は188点、会員は107点で審査対象作品数は295点となりました。入選数は一般80点、会員83点で163点となりました。一般の入選率は43%、会員は78%でした。一般の方は大変厳しい結果となりましたが、初めて出品される方も多く、工芸という分野そのものがまだ良く理解されていない部分があったのかなと思うふしがありました。近年陶芸の組皿が多くなってきています。数の制限はありませんが、5枚6枚の制作、出品することが望ましいかなと思います。
今年は人形、七宝の力作が見あたりませんでした。壁面作品の中で絵画的に主力を置いている作品が多く見受けられました。工芸は素材を生かしたもので絵画的に主眼を置くのはどうかなと感じました。全体的な傾向としてはそれぞれが個性を発揮しており変化に富んだ作品がありました。自分の個性を大切に、作りたいものを作るという方向を大切に、これからも進んで下さい。

■埼玉県知事賞

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「欅拭(けやきふき)漆十二角盛器」
丸岡重信(まるおかしげのぶ)
欅拭(けやきふき)漆十二角盛器
48cm径の欅材のくりものの作品です。中心から十二等分して二段の角度を変えて内面に変化をさせています。微妙な角度での削り出しは技術のいるところで作者の技量が伺えます。
目のつんだ良材に拭漆を施し、欅材の良さを引き出しています。裏面も表面と同じ彫がしてあり、程良い重さで持ち手も良く盛器としての使い勝手がすばらしい作品に仕上がっています。全体のバランスも良い秀作です。

■埼玉県議会議長賞

「色絵刻(いろえこく)紋皿揃い」
荒井将仁(あらいまさひと)
色絵刻(いろえこく)紋皿揃い
ポップで鮮やかな色絵が目に入ってきます。
陶土の板を文様が彫ってある皿型に押し当てる事により刻文が浮かび上がり、その上に色釉を施ことにより色彩豊かに仕上げています。
5枚組の揃いの皿ですが、それぞれの刻文の鳥や人の構図が違い、作品の中に物語があるように感じます。
観る側にも作品から楽しさが伝わる秀作です。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「欅孔雀杢拭き(けやきくじゃくもくふき)漆小物入れ」
小川辰夫(おがわたつお)
欅孔雀杢拭き(けやきくじゃくもくふき)漆小物入れ
総欅の七段の小引き出しが付いている小物入れです。丸い四本の足で孔雀杢という銘木で天板、側板の四方を固定、どっしりとした作品になっています。引き出しの面はわずかに曲面になっており、黒柿の取手の曲線と相まってしっくりといっていて、固さがなくなりやわらかさを感じます。仕上げは拭漆という欅の木目を最大限に生かす技法で、丹念に塗りをしており美しく仕上がっていて、細かい所も手を抜かない素敵な作品です。

■埼玉県美術家協会賞

「華皮(かいらぎ)流線紋花器」
榮 一男(さかえかずお)
華皮(かいらぎ)流線紋花器
シャープなエッジで造形的に加飾された流線紋は、落ち着いた色合いの梅華皮釉が掛けられることによってゆったりとした雰囲気と、内からなる力強さを感じます。
側面のレリーフと口元のフォルムは、まるで水中から水面に伝わる波の一連の動きのように、それぞれが協調しあう構成になっています。
作者の造形力の高さと、表現へのこだわりを感じる秀作です。

■埼玉県美術家協会賞

「半夏生(はんげしょう)」
日岐かつ江(ひきかつえ)
半夏生(はんげしょう)
夏用の薄手の生地に半夏生が、素描き風に表現されています。生地の織り方が表情に富み、シャリ感のある地風がモチーフの季節感とマッチして心地良い相乗効果をあげています。半夏生を彩る挿し色のグリーンからブルーに変化する色の階調が美しく、実際よりも豊かな色彩の存在を見る側に与える効果があります。また淡いグレイの斑模様がおおらかに地色に施され、涼やかな風の通り道を感じさせます。通常はムラが無く均一に殆どである地色について、作者は個性的な表現方法で、モチーフを良く生かしています。
一見ラフに見えながら、神経の行き届いた細かさを感じます。
作者の豊かな感性の今後に期待致します。

■埼玉県美術家協会賞

「嘉辰令月(かしんれいげつ)」
村田之保(むらたしほ)
嘉辰令月(かしんれいげつ)
和紙素材の中で最も繊維が長く男性的と言われている楮(こうぞ)を使った作品であり、表面の質感を生かす為に、故意に材料の中に太い繊維を入れて漉き上げています。
構成は大小の円と正方形をタイルのように絶妙なバランスで組み上げており、色彩も和紙の生漉色と茶色のバリエーション2色におさえて、作者の思いを表現しています。
枠の木目とアクセントに入れたブラウンの木材とのマッチングも良く考えられている力作です。
令和元年にふさわしいタイトルになっています。

■NHKさいたま放送局賞

「いたずら」
黒澤香奈(くろさわかな)
いたずら
一枚の板を何回もたたき造形を行なう鍛金技法、その中でも難しい変形絞りで作られた作品です。いたずらそうな顔とボディを上手に一枚の板から打出し、毛並はたがねを入れ、細部までこだわっています。たがねを入れた事で動物の表情が豊かな作品になりました。
若い作者の技術力の高さに感心いたしました。動物のいぶし仕上、台座の緑青仕上、黄銅のリボンと異なる素材や色の組合せもお互いを強調し成功した作品です。若い人ならではの感性があふれ、見ていて楽しい作品に仕上がりました。

■埼玉県美術家協会会長賞

草木染・道屯織着物「春のかおり」
田所智江(たどころともえ)
春のかおり
絹糸から着物に仕上がるまでの、糸染め、かすり作り、縞立て、機織り、等々の技法が丁寧に確実に行われた結果の作品です。
道屯織りで糸がキラリと輝く部分、薄紫色の横がすり、格子柄などが特徴的です。そして肩と裾からのグラデーションで奥行きまで感じられます。
すべてがバランス良く仕上がった秀作です。

■高田誠記念賞

「嬉しい便り」
荒舩絹子(あらふねきぬこ)
嬉しい便り
木彫布木目込みという技法による人形です。桐の木を頭、手、足、胴と別々に彫り、顔、手は胡粉を塗り仕上げます。
胴体は、布を木目込み、別々に仕上げた各部を組合せて完成させます。
人形の造形に優れていて、着物や帯は夏物の生地を使い、木目込みもとても丁寧に仕上げてあります。
初夏に嬉しい便りが届く情景が浮かぶ、素晴らしい作品です。

ページの先頭へ第5部「書」

審査主任 栗崎浩一路(くりさきこういちろ)
第69回展の書の総出品点数は512点、公募出品点数は433点です。前回展に比べ、総数で19点、公募で18点の減でした。出品数の減少は残念なことですが、出品者が全県域に亘っており、その年齢層が幅広いこと(高校生から101歳まで)など、この県展が多くの県民に支えられて開催されていることに悦びと希望を感じています。
審査結果を決める鑑別は、厳正公平に三次鑑別まで行い、入選258点(入選率59.6%)を決定しました。県展の厳しさは周知の通りです。今回展では、入選は叶いませんでしたが101歳の方からの出品がありました。温かく楽しいその作品は今も記憶に残っています。いつまでも筆を持ち続けていただきたいと思います。
入賞は、慎重且つ丁寧に三次審査まで行い、特選10点を決定しました。何れも作者の意図が表出した優れた作品です。委嘱から受賞した埼玉県美術家協会会長賞と高田誠記念賞と合わせた12名の受賞者は、今後も県展で輝き続けてください。受賞するということは栄誉や悦びとともに、作家としての責任と覚悟が必要です。更なる活躍を期待しています。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「王維詩」
髙岡豊流(たかおかほうりゅう)
王維詩
字形は極限まで省略した姿を優先しています。自信に満ちた力感溢れる運筆は、文字學に対する深い造詣の上に築かれた長年の経験が基盤となっていることが伺えます。やり過ぎず、気品を漂わせる作品は、観る人に心地良さと安心感を与えてくれます。ベテランだからこそ表現できた伝統から創造という大きな課題に対する一つの答えではないでしょうか。

■埼玉県議会議長賞

「京口」
吉野麗香(よしのれいか)
京口
この作品は、墨量を絞り、筆圧をかけた力強い線で書かれており、迷いのない運筆が気迫となって心に響きます。静かな書き出しで始まり、徐々に気持ちの高ぶりによる大胆な表現になっています。
特に、二行目中心部の「舟斷岸随」には壮快感があり、作品を魅力的に構成する作者の意図を感じます。作品全体としての構成も良く、技術的に高度な作品です。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「松かげの・・」
菅谷志水(すがやしすい)
松かげの・・
仮名の大字作品です。大胆な柄で美しい加工料紙にマッチさせたダイナミックな構成の作品です。力強い筆致で全体を締めてバランスを取り、明るく魅力的に仕上げています。料紙の扱いは難しいものです。これからも充分工夫され、受賞を励みにますますの活躍を期待します。

■埼玉県美術家協会賞

「杜甫詩」
秋葉秀厓(あきばしゅうがい)
杜甫詩
この作品を見たとたん、まず、線の切れ味に圧倒されました。微妙に変化する角度にも、心地よいリズムを感じます。行間を広く取ることによって、タテへの流れを強調したところが、明るく素晴らしい作品に仕上がったポイントだと思います。ますますの活躍を期待しています。

■埼玉県美術家協会賞

「黄庚詩」
大室紅玉(おおむろこうぎょく)
黄庚詩
柔らかい羊毛の長鋒の筆を駆使して、穂先まで精神を充実させた力作です。その筆力、粘りなどによる重厚にして繊細な線質の変化、熟練した運筆は、リズム良く実に見事です。また、この自信に満ちた大胆な躍動感は、行間の余白に余韻を漂わせる心の味を感じさせ魅力的です。今後の活躍を期待します。

■埼玉県美術家協会賞

「漱石詩」
川村彩雲(かわむらさいうん)
漱石詩
漱石の季節を詠った七言絶句を揮毫しています。起句「風吹遠樹・・」ゆったりとした優美な書き出しです。「天地有情・・」転句で一転し、個性的でリズミカルな運筆に変わります。全体の調和を重視して結句を結びました。同じ書風が多く出品されている中で全く異なる作品として感じてしまうのは、いかに作者が詩を読み込み、墨色にまで詩中の空気を漂わせ、詩と漱石の心に触れようとしているからではないでしょうか。

■さいたま市長賞

「恋」
大山光穂(おおやまみつほ)
恋
仮名の細字作品です。新古今和歌集十四首を、繊細で切れのある線と力強い線とで表現し、全体を調和させています。大胆な構成の中にも、古典を踏まえて流麗に美しく表現していることは、観る人にも落ち着きと魅力を感じさせることと思います。とても豊かで安定感のある作品です。

■さいたま市議会議長賞

「王文治詩」
里 芳倫(さとほうりん)
王文治詩
この作品は、四行の行間の中に、墨の黒と余白の白の美しさが、顕著に表現された作品で、作者の錬度の高さが伺えます。
「墨を置いていく」という表現がありますが、この作品には、それが感じられる格調の高い作品です。今後、益々の活躍を期待しています。

■読売新聞社賞

「この年」
渡邊翠麗(わたなべすいれい)
この年
調和体の魅力は、読みやすいこと。この作品は、行書体を主として、行間の流れで変化をつけ、強い線と温かみのある線とを織り交ぜることで、明るく美しい作品に仕上げています。現代に生きている作品といえます。

■テレビ埼玉賞

「劉基詩」
町田武山(まちだぶざん)
劉基詩
文字の大小、線質の変化、潤渇、行の振幅、筆圧の変化など、まさに熟達した作品といえます。また、自由自在に空間を処理し、その大胆なリズムが作品に心地よい躍動感を与えて魅力的です。今後、より一層の活躍を期待します。

■埼玉県美術家協会会長賞

「常建詩」
小峰青湖(こみねせいこ)
常建詩
淡墨で、詩文の詩情性を叙情的に表現している作風です。この作品の線質は、筆の鋒先の紙へのタッチが、鋭くして強く、そして深く食い込んでいます。その線条美は、文字空間、余白にも響きを放っている力作であります。墨量の変化による潤渇、大胆な構成、筆法のリズムなどは、実に見事で素晴らしい優作です。今後の更なる発展を期待します。

■高田誠記念賞

「盤施揖讓(はんせゆうじょう)」
新井昭江(あらいあきえ)
盤施揖讓(はんせゆうじょう)
生命力の根源を思わせる篆書と呼ばれる古代文字。四文字を木彫風の律動的な線で、畳み込むように刀を引き、倒し、切る。観ていると石と鐵筆の心地よいリズム音までもが伝わってくるようです。この方寸のわずかな世界の緊張感、均等に分割された朱白のデザイン的な文字のおもしろさは、観る人に思わず「おしゃれ」と言わせるかも知れません。単入法で力強く彫り上げた側款も見事です。

ページの先頭へ第6部「写真」

審査主任 佐藤親正(さとうちかまさ)
令和元年開催の69回展は、審査対象出品数が、1,300点、入選点数456点、入選率は35.1%でした。応募作品はジャンルに片寄らず、それぞれの求める表現で作品を創作した力作が印象に残り、応募いただいた皆様に衷心より感謝申し上げます。
審査は、9人の審査員により、4次審査まで投票を行い、受賞作品を決定するまで厳正に行いました。単写真、組写真ともに公平な審査を心がけて賞の決定をいたしました。近年は、デジタル編集の普及によりA3ノビのプリントでの応募が多くなっています。
撮ってから作品制作まで自分で行う事が主流となる時代がいよいよ来たことを実感しました。毎年の県展が皆様の励みになるように努力いたしますので今後ともご協力をよろしくお願いいたします。

■埼玉県知事賞

※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「春美景」
柴田昌彦(しばたまさひこ)
春美景
早春をすがすがしい色使いで表現しております。右に残り柿、左に芽吹いたばかりで、まだオレンジ色の若葉を配し、中央に柳と思われる新緑を表現しました。
3枚の作品には残雪があり、それぞれの色を引き立てる効果を感じます。3枚総ての作品が極めて短い時期にしか見られない風景です。作者は大変努力したことと推測致します。

■埼玉県議会議長賞

「夜へ急ぐ人」
小谷和己(こたにかずみ)
夜へ急ぐ人
普通では気にも留めないロケーションが光と影の演出で想像的な魅力を引き出しています。老朽化している建物と「夜へ急ぐ」が不思議なイメージでつながり、見る人の思いを増幅させます。
画題の「人」を想像させるに留めた表現も斬新で左右の赤に効果的な力を感じます。

■埼玉県教育委員会教育長賞

「終演」
高塚光美(たかつかてるみ)
終演
美しかったほおずきが時と共に変化する最後の姿を、悲しくも美しく昇華した作品です。
作者の作意を表現できた作品になりました。背景の黒の中に崩れる傘をリアルに表現し、垂れ下がる傘を撮りえた事が写真表現の価値です。
中心の実はしわしわになるも、赤が冴え冴えと輝く事で精神性を感じる作品になりました。

■埼玉県美術家協会賞

「スローな時間」
入江一男(いりえかずお)
スローな時間
現代社会に一番求められる世界が画面に感じられます。作者の意図が画題に示すように、「現代社会にこそ心や時間に余裕が欲しい」との願いを込めた作品になりました。
作者の感覚と被写体が合致して表現出来た作品です。傍らに愛犬がいる事も現代社会を表現する効果を感じます。

■埼玉県美術家協会賞

「回廊」
宇南山篤(うなやまあつし)
回廊
一見すると派手な作品に見えますが、よく見てみると色々と想像のできる作品です。
左の看板には活動的な若者が表現されており、その中に現代社会を感じる事ができます。
一方、杖を突いて歩く年配者と長く続く回廊からは人生を感じます。その後ろ姿には寂しさを感じますが、仕事をやり遂げた充実感も感じる事ができます。

■埼玉県美術家協会賞

「迷いこんだ路地」
柳川恭平(やながわきょうへい)
迷いこんだ路地
路地をテーマに撮影した組写真です。基本となる起承転結のストーリー性もあります。
一番目には看板を入れて路地に迷い込む前の現実の世界を表現し、ここは何処だろうという窓の風景を見せて、最後に暗い路地に希望を感じる光を見せています。
色とイメージの統一性も良い作品になりました。

■埼玉県美術家協会賞

「瑠璃色の輝」
若林正雄(わかばやしまさお)
瑠璃色の輝
この作品は偶然に鳥と出会い撮影できた作品とは思えません。鳥の行動を観察し、ロケーションを決めて撮影した作品だと思います。
無駄の無い構成になっており、背景を暗く落としたこと、花と鳥とのバランスが絶妙なこと、ピントが鋭く鳥の活動の機敏さを表現したことで素晴らしい作品になりました。

■さいたま市長賞

「平成みゆき族」
小谷真弓美(こたにまゆみ)
平成みゆき族
1964年に開催された東京オリンピックの頃、自由な考え方や行動を示す青年達がみゆき通りに集まった時代からの時間の経過と社会の変化を表現した作品だと判断いたしました。
ブルーの色彩や樹木の影、淡々と歩く若者の服装などから時の流れと変化を表現しました。
標識以外過度な説明的表現も無く、見る側に考えさせる作品だと思います。

■さいたま市教育委員会教育長賞

「春の喜び」
菊地勝也(きくちかつや)
春の喜び
大木の桜が満開に咲き誇るグラウンドに、黄色い制服の園児達が集う姿は画題の「春の喜び」そのものです。
毎年咲く桜と共に記念撮影をして園児たちの忘れない思い出を想像できる作品です。
園児たちが大人になってこのグラウンドに来たとき、この桜が毎年咲き誇ることを願う作品にも思いました。

■東京新聞賞

「遥かなる大地」
加藤秀(かとうしゅう)
遥かなる大地
6枚の写真がそれぞれにこだわりの表現で丁寧に撮影された作品です。
草原、海、岩を上手にまとめ、広大なランドスケープを表現しました。統一されたトーンも見応えを感じます。奇をてらう様な表現もありません。作者が大地と向き合い真正面から表現した気持ちの良い作品です。

■埼玉新聞社賞

「陽春」
井上文子(いのうえふみこ)
陽春
入賞作品の中で唯一のモノクロ作品です。風に吹かれてなびく髪が逆行でかがやき、子供の表情、視線も自然で素晴らしく、モノクロ表現の効果を感じる作品になりました。
抱っこしているのはお父さんでしょうか、しっかりとつかまった指にも親子の愛情と絆を感じます。

■時事通信社賞

「店先」
益子早苗(ますこさなえ)
店先
周辺光量を落とし、3人の営みを中心にした店先がドラマチックに表現されました。この作品には日常の生活感があります。その国の風土を感じます。
店先の卵、野菜、果物の並び方や量目などの写真表現は、メッセージとして正確に伝える写真の力を感じる作品だと思いました。

■埼玉県美術家協会会長賞

「今日それぞれの」
新井富二(あらいとみじ)
今日それぞれの
現代は色々な場面でプライバシーが問題化されています。写真界においても同様で、人に対してカメラを向けることへの抵抗が大きく、年々人物写真が減少傾向にあると思われます。
この様な環境の中、それぞれの人生模様に視線を向けている姿勢と作品の力に、今後の写真界において大いに期待できるものを感じる作品です。

■高田誠記念賞

「寂光微風の刻」
新井房子(あらいふさこ)
寂光微風の刻
力なき月明かりが綺麗な写真と言うよりも静かな時間帯を描写しています。
この場面を作者がどんな気持ちで撮影をしたのか、作者の心の内が伺えます。
プリントもそれに添った表現になっており、見る人も作者と同じ感動を受ける作品になりました。