第1部「日本画」
審査主任 斉藤博康(さいとうひろやす)
第72回埼玉県美術展覧会日本画部門の一般、会員の出品数は133点で例年に比べて減となりました。
新型コロナウイルス感染症拡大も収まりつつありますが、制作期間には写生も含め、少なからず影響があったように思われます。
そもそも日本画の画材は岩絵具、膠などデリケートな扱いを必要とし、それを習得し思い通りに表現するには多くの時間を要します。その上で、若い方々から経験豊かな方々まで、新鮮かつ意欲に満ちた多様な作品が寄せられました。その中から、審査員一同、慎重に審査を重ね、入選作品及び受賞作品を選定いたしました。
作品はそれぞれの美意識で表現されており、真摯に制作された姿が目に見えるようです。厳しいことですがお互いに刺激し合い、更に制作に挑んでいただくことを望みます。
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「顕現・青」
横田綾子(よこたりょうこ)
安定感のある構成で、清々しい世界に誘ってくれる作品です。
透明感の漂う清涼な世界は、想像を超えるような時を経て自然の営みが作り出した姿であることを感じます。澄んだ心であるからこその表現世界です。
■埼玉県議会議長賞
「Night」
安藤克也(あんどうかつや)
表から銀箔を貼り、下地となる黒地を激しく削り出したことによる圧力が、見る人に力強さを感じさせる素晴らしい作品です。
この調子で大作に挑戦し、是非、見る人を楽しませてください。
■埼玉県教育委員会教育長賞
「里山の秋」
松本徹(まつもとあきら)
年月を重ね、苔の生えた木の幹を力強く、生き生きと描いた力作です。黄葉が始まった頃の様子や、葉の描写も巧みで、画面を引き締めています。
■埼玉県美術家協会賞
「タナゴ釣り」
富岡恵子(とみおかけいこ)
全体に落ち着いた色調の中に、2人の子供の手の動きや水の揺らめきがよく描き込まれています。タナゴ釣りという、小さな獲物を相手にする静かな楽しさが伝わってきます。足元の枯葉も丁寧です。
■埼玉県美術家協会賞
「待つ」
鈴木望永(すずきみえこ)
テラスで誰かを待っているのだろうか。椅子と猫が効果的に配置されています。
木目も丁寧に描き込まれ、木々が画面を引き締めています。家の中の明かりが暖かい雰囲気を醸し出し、力作となっています。
■東京新聞社賞
「たゆたう」
平野民子(ひらのたみこ)
女性の表情が穏やかで、ゆったりとした日常生活が表現されています。とても丁寧に塗り重ねてあり、好感の持てる作品です。
■高校生奨励賞
「花さかせちゃうし」
諸井莉沙(もろいりさ)
明快で爽やかな配色が新鮮で、観る者をホッとさせるような空間が描かれて居ます。
この絵の魅力は、色彩と、構成力だと思っています。
若々しく瑞々しい感覚を大事にして、勉強を続けて欲しいと願っています。
■埼玉県美術家協会会長賞
「季をくくりて」
池田睦月(いけだむつき)
鶏頭、霞草、紫式部などの植物を束ね、壁につるした様子を観察し、丹念に描き込まれた秀作です。
暗めの背景に赤系の色彩を基調にし、魅力的な色調になっています。
■高田誠記念賞
「吹奏楽部(マーチング pert.)」
駒﨑美香子(こまざきみかこ)
しっかりとしたデッサンがあって描かれており、ブレがないところがよいです。
女子学生の表情も清々しく丁寧に描かれて、次の作品も楽しみです。
第2部「洋画」
審査主任 浅見文紀(あさみふみのり)
第72回埼玉県美術展覧会洋画部の出品総数は一般614点、会員428点、運営委員・審査員、招待・委嘱者を合わせて1163点となりました。
出品された多くの作品は、意欲的で作者の心のこもった力作が多く喜ばしく思いました。最近は表現の幅が広がり、時代と共に多様化しています。ミクストメディア、各種ペン類、コンピューターグラフィックス等デジタル処理をされた作品も見られました。また、高校生をはじめ若い作者の頑張り、ユニークな視点には特筆すべきものがありました。
審査は厳正かつ慎重に行いました。第一審、二審、三審と進め最終的に16点の特選、高校生奨励賞1点を選出しました。埼玉県美術展覧会の厳しさは周知の通りですが、上質な作品がひしめいており、自分の心で捉えた個性的な表現方法で描かれた作品、何か語りかけてくるような会話のできる作品が受賞の栄誉に輝きました。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う制限もなくなり、様々な展覧会が開催されています。ジャンルを問わず芸術作品に触れながら感性を養うことも大切だと考えます。
県展のレベルは著しく向上しておりますが一層の研鑽を願ってやみません。
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「中世の空」
松井茂樹(まついしげき)
青いドレスを着た1人の若い女性が青いリンゴを膝の上に置いて座っています。清楚で美しい女性です。
人物画においては、顔が最も重要ですが、この作品は表情も素晴らしく、実に良い顔が描かれています。
背景はヨーロッパの街並みでしょうか。澄み切った青空とともに広々とした空間が広がり、観る人を爽やかな気持ちにさせてくれます。
また色彩においては、それぞれの色が響き合い、調和のとれた美しい作品になっています。
■埼玉県議会議長賞
「外は雪」
城戸義子(きどよしこ)
遠目から、やさしさが感じられる作品です。民芸調の椅子に何気なく置かれたカウチンセーター。手紡ぎの糸で編み上げた素朴な質感が、温かみと共に実に丁寧にしっかり描写されています。作者の得意とするモチーフなのでしょうか。思わず足を止めて見入る秀作です。この技術を生かした次の作品がとても楽しみです。
■埼玉県教育委員会教育長賞
「生きる/大六のケヤキ」
成川健三(なるかわけんぞう)
樹齢何百年も経っているような大木、その重みと存在感が実に見事に表現されています。木の表面の凹凸、木肌の模様、朽ちた凹みなどとてもリアルに描けています。
また、大木に左からの強い日差しが当り、観る人をハッとさせるものがあり、爽やかな空気を感じます。
見上げると、細い枝や葉が生き生きと描かれ、葉色の良さ、リズムとバランスの良さも感じるとても良い作品です。
■埼玉県美術家協会賞
「あさがお」
比嘉定勇(ひがていゆう)
右上から射し込む暖かな日差しが画面全体を優しく、そして少女と背景の「あさがお」を照らしていて、とても素敵です。
少女の顔・髪・手・衣服と「あさがお」、葉の描写のパステル調の色彩が美しく、柔らかくも強弱があり、一つ一つ丁寧に表現されていてとても良いと感じます。
少女がうつむく先には、1輪だけ咲いている「あさがお」が描かれており、そこから少女が何かを想う・・・・と物語るような表現も感じます。
■埼玉県美術家協会賞
「雪化粧」
荒井隆幸(あらいたかゆき)
しんしんと降り続いた小雪の白が、画面全体に小気味良く配置されていて、魅力的で清潔感さえ感じ取れます。
対照的に重く垂れ下がった透明感のある棕梠(しゅろ)の緑が印象的です。
薄日を浴びた木々の梢、枯草にも作者の丁寧な視線が注がれ、色彩のコントラストが美しい作品になっています。
一番身近にある庭をテーマに、日頃からの庭に対する作者の深い愛情が感じられました。
■埼玉県美術家協会賞
「ロンド」
青山久子(あおやまひさこ)
作風が印象に残る作家です。スクエアに区切られた形のなかに描かれた世界が、繰り返されながら心地よく構成されています。全体の色調も実に気持ちよく、気品があり優しく輪舞しています。タイトルにふさわしい素敵な作品です。
■埼玉県美術家協会賞
「タイプライター」
内藤和高(ないとうかずたか)
作者が長く愛用したタイプライターなのでしょうか。それをどっかり逆光の中央に据えることで、明るい部分と暗い部分、広いスペースと小さく詰まった部分との大きな対比を引き出しています。この構成が見事です。
透明水彩は、紙の白さを生かす絵画の技法ですが、それがとても効果的に生かされています。明暗のグラデーションも豊かで、細部も適切に省略されています。安心して一つの情景に浸ることができる作品になっています。
■さいたま市長賞
「奥武蔵、待春」
池田賢子(いけださとこ)
里山の斜面に強い陽が射し込み、木陰の深い緑と拓かれた斜面の土色のコントラストが美しく描かれています。
また、斜面にある小屋、葉の落ちた木々なども丁寧に描かれ、構図にアクセントを与えています。題名からすると季節は新緑の芽吹きも近く、色彩にも変化が感じられるようです。恐らく作者は現場でしっかり写生したことでしょう。透き通った冬の空気や里山の自然、色彩、住む人の生活感をも丁寧に描いています。
■さいたま市議会議長賞
「森を歩く」
並木千恵子(なみきちえこ)
清楚、優雅、優しさといった印象の女性像が多い中で、女性が自らの道を一人で歩いていく、強い意志を感じさせる作品です。背後のどっかりした岩が、彼女の心を象徴しているようです。人物に当たる光も効果的に考えられています。
冬の暗い森、道とその先の暗い空など、要素を緊密に組み立て、彼女を取り巻く世界を暗示しています。処理の気になる部分も目につきますが、画面全体にみなぎる作者の意思がそれを上回りました。
■さいたま市教育委員会教育長賞
「秋の香り」
原島知子(はらしまともこ)
あらかじめ作ったマチエールと描画のタッチが相俟って、やわらかい表現になっています。それでいて、工業的に作られた硬いものと自然が生んだ柔らかいものとの質感の違いは、しっかりと描き分けられています。豊かな秋色のハーモニーは大変美しく、ほのぼのとした仕合せな空間を創り出しています。赤いグラスと手前の果物の重なり方を少し変えて、グラスの形の美しさを損ねないように工夫できると更によいでしょう。
■埼玉新聞社賞
「立派な」タテモノ-いつまで保たせる気だ?
宮智英之助(みやちえいのすけ)
色面とフォルム、線の構成が眼に迫ります。この画面空間は地上のことなのか、地球外のことなのか。更には、このジグザグ状のウエーブは電波なのか、危険信号なのか。明解な色と校正で眼に迫りながら、それを超えて、人間の五感を震わせある感覚を放つ作品です。タイトルは、この作品が生まれ出る基(もとい)となっただろうメッセージを呈示していますが、その意識意図を超えて繰り広がっている画面世界が、ここにあります。
■時事通信社賞
「街の灯り・青バージョン」
伊藤清治(いとうせいじ)
受賞作中、唯一の版画での受賞作となりました。本作は、夕闇迫る街の灯と鳥飛ぶ群れの姿を図案的にアレンジし組み合わせ、詩情とモダン感覚を共に持ち合わせた作品となりました。また、版画との混合技法を用いながら、抽象と具象の狭間のバランスを取り、画面に静と動のリズムを絡ませ、ブルーの大きな面と少量の赤の対比やモノクローム色を組み合わせる画面構成など、気の利いた絵画的思惑を上手く絡めながらまとめられていました。
■FM NACK5賞
「渓谷」
大谷充秀(おおやみつひで)
季節は夏頃なのでしょうか。
左奥から流れ落ちる滝と、右側にある岩々、手前の大きな苔の生えた迫力ある岩を水彩の点描で、細かく描いています。
流れていく川を背景に岩の構図が主役となっていて、とても良いと感じます。
岩につく苔や草の葉、川の深さと激しい流れ、水しぶきが一つ一つ細かく表現されていて、色彩の調和も綺麗で、みずみずしく川の音が聞こえて来るような作品となっています。
■朝日新聞社賞
「転轍器」
大沢弘(おおさわひろし)
秩父鉄道のあちこちに残る転轍器(てんてつき)。近年はポイントと言う。鉄路の分岐点で、接続の仕方を切り替える装置。重いレールを手の力で動かすので、かなりの力仕事です。その様子が目に浮かぶ人はもう少ないかもしれません。色のない背景には、作家の深い思いが塗りこめられています。やや暗めで静かな空間が、観るものを、あの貧しくも心豊かに生きていた遠い昔にいざないます。
■NHKさいたま放送局賞
「竹藪」
大熊栄作(おおくまえいさく)
画面全体に斜め放射状の竹が無数に放たれ、左側下方に小さく淡く五羽の蝶・・・青、淡桃色、白、端にエンヂ色、黄・・・配置された蝶たちが、この作品の持つ、静謐でありながらムーブメントに満ちた世界を更に増幅させています。放射状の無数の竹たちは、古来の東洋モダニズムと現代モダニズム、人間の原初の感覚を繋ぐような生気と儚さに満ちて、静止しつつ疾走し続け、静かなダイナミズムを放っています。
■共同通信社賞
「穏やかな日」
菅原邦子(すがわらくにこ)
水彩絵の具を用いた作品です。山岳や森林の景観、木々や草花の姿など、山川草木たる「自然」を主題に描く出品作は多くありました。その中でも本作は、画像的に切り取り焦点を狭めた視点でありながらも、木幹の白色と背景の黒色との対比を構成の基底に据え、さらに葉の表現に彩(いろどり)を与え展開させ、そして冷静的確に水彩絵具をコントロールしながら隅々まで意識を集中して描かれた力作となっていました。
■高校生奨励賞
「桜」
豊島礼芽(とよしまあやめ)
大人の作品と比べても全く引けを取らない、堂々とした作品となっていて驚きでした。
桜が何年もの齢を重ねて空に伸びていく様を下から見上げる視線で力強く表現した構図。
そして幹のザラザラとした重厚な肌触りと優しくはかない桜の花びらとの対比がとても素晴らしいと思いました。今後の活躍を大いに期待しています。
■埼玉県美術家協会会長賞
「飾り棚の有る静物」
新井友江(あらいともえ)
飾り棚に置かれた静物、下段は生活に使われたであろう瓶やポットなど、中段には摘み取った綿花や実のついた枝、上段は車の模型そして、土壁に掛かった熊の形の温度計など作者の生活の中で慣れ親しんだ品々でしょうか。何気ない物をしっかりとした観察眼で丁寧に描いています。また、背景の土壁の痛み具合から古さも感じられ、それらが一層生活感を醸し出しています。何気ない物をしっかりと描いた素晴らしい作品です。
■高田誠記念賞
「読書」
井田善子(いだよしこ)
まるでおしゃれな映画のワンシーンを切り取ったようなセンスの良さを感じます。
油絵は多くの色を塗り重ねていくと濁ってしまいがちですが、この作品では美しく深みのある色となっています。またいきいきとした筆のタッチは迷いがなく更に印象的なものにしています。油絵の良さが存分に表現されているので油絵を描いている方にはぜひ参考にして欲しいと思います。
第3部「彫刻」
審査主任 清水正捷(しみずまさかつ)
今回の審査は、6人の審査員で行うことになりました。鑑審査の対象となった一般応募総数は64点(うち高校生の出品は9点)、入選数は49点、委嘱・招待を合わせて昨年並みの83点の展示となりました。一般、会員の出品点数が減少したことは残念ですが、アカデミックな作品に加えて時代を反映したものなど多様性のある展示となりました。また、委嘱・招待の作品は、70年以上の県展の歴史を裏付けるベテランの味を有し、加えて個性的で魅力溢れる作品とともに会場を潤していました。
高校生の作品は、時間と手間をかけた「創造の種」を感じる作品が多く見られました。制作に集中できた経験を糧にこれからも自己表現の追求を精一杯頑張ってください。
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「くろがね号の操舵室~王と王妃の玉座へ~」
長谷川善一(はせがわぜんいち)
鉄の鋳造による作品の重量感と質感は、力強い安定感と存在感を感じます。重厚な扉を連想させる背景と鎮座する王と王妃の存在を想起させる玉座は、シンプルに美しいと感じます。気高い空気を醸し出す空間表現は作者の力量を物語っているようです。技術も表現も秀逸な作品といえるでしょう。
■埼玉県議会議長賞
「Fishmonger's base」
三塚雄介(みつかゆうすけ)
テラコッタで作られた作品は、深海に灯る街灯かりを背負いアンコウが集う、というユーモラスな構成で、まるで絵本の中から飛び出して来たものを見るような高揚感を覚えます。
丁寧に作り込まれたそれぞれの表情は個性に溢れ、水の中を漂う様子も丸いフォルムも高い造形技術が生かされています。見るものを引き込む表現が大変良いバランスで完成されていると言えるでしょう。次回作にも期待しています。
■埼玉県教育委員会教育長賞
「地球平和」
一ノ瀬勲夫(いちのせのりお)
上部のすうーっと立った水鳥の形態が面白く表現されています。さらに頭部の後ろ側には片目の人物の顔が…それらを組み合わせたユニークな作品です。下の二匹の魚はこの鳥に何をねだっているのでしょうか。なぜか気になる組み合わせです。
■埼玉県美術家協会賞
「龍鯉」
嘉白順一郎(かしろじゅんいちろう)
本物の剥製と見間違えてしまうほどリアルに表現された作品です。樹脂粘土を使用し、うろこの一枚一枚の質感やヒレの透明感までもが表現されているこだわりには驚きを隠せません。鯉が昇天しながら龍に変化(へんげ)していくオリジナリティ溢れる造形も見応えを感じます。一つだけ注文をすると、彫刻的な見せ方の工夫がほしいところです。
■埼玉県美術家協会賞
「渉り」
下島舞子(しもじままいこ)
時空を渉る犬の形態を表現しているのでしょうか。未来派の彫刻を彷彿とさせるフォルムがとても興味深い作品です。木彫刻の技術もさることながら、素材の特徴を生かした表現方法により作品に生命観さえ感じます。独自の空間表現がどのように進化していくのか今後の作品の展開が楽しみです。
■埼玉新聞社賞
「幸せの予感(時間と空間)」
内田文江(うちだふみえ)
素焼き後、衣服などに釉薬(ゆうやく)を施し本焼きまでしており、色の対比のバランスが良い、たいへん美しい作品です。
題名のごとく、幸せの予感を感じさせる優しく穏やかな空気が彫刻のまわりに漂っています。一方、顔の表情や華奢な体からは,少しの不安感と希望が綯い交ぜになっている感情も読み取れます。見る側の感情に強く訴えかける作品です。次回も楽しみにしています。
■高校生奨励賞
「むげん」
藪 菜々美(やぶななみ)
赤ちゃんのぷっくりとした、ボリューム感が感じられる木彫です。赤を基調とした着色も、この作品に合っていて、存在感を出しています。寝ている作品ですが、へその緒が上に伸びている事で、上への広がり、立体感を感じさせます。効果的な働きをしていますが、本体の赤ちゃんと一体になっていれば、なお良かったのではないかと思います。細かい点等、今後に期待します。
■埼玉県美術家協会会長賞
「吹き抜ける風」
森下聖大(もりしたまさひろ)
風をテーマにした木彫の作品です。木の洞を効果的に使った土台の穴は、吹き抜ける風の通り道となり、風を纏った木片は、舞い上がる炎さえ感じます。木を限りなく薄く削ることで現れた穴は、より軽さを表現するために効果的なものとなっています。
■高田誠記念賞
「翼をまとう」
阿部昌義(あべまさよし)
着彩することを前提に作成されたと思われるこの作品は、木彫でありながら絵画のような平面的な魅力を持ち、軽やかさが際立ちます。
細部に渡り、形を言い切る姿勢から、作品を仕上げる強い意識を感じることができます。自身の世界観を実体化すべく研鑽を積んで来られたことが感じ取れる作品だと思います。
第4部「工芸」
審査主任 上原利丸(うえはらとしまる)
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により中断していた県展の再開から3回目の審査となり、第72回展の工芸の応募総数は前回より19点増えて254点でした。内訳は、一般179点、会員75点。入選者数は、一般92点(入選率51.4%)、会員57点(入選率76%)、合計149点(入選率58.7%)となりました。
今回の応募者・出品作品の特徴としては、初出品、復活組が増えたこと、作品の内容・レベルが工芸の各種別とも非常に高いことが挙げられます。このことはどのような要因によるのか来年度以降の状況を見て判断すべきかと思いますが、工芸は素材の生かし方、技法・技術の習得、表現までに経験や時間を要する分野ということを考慮すると、良い傾向に向かっていくのではないかという期待感を持ちました。
近年の課題ではありますが、工芸の定義、入選・落選の基準が素材・技法・表現の多様化に伴い難しくなっています。この問題は、ミクストメディア的な表現、作品のサイズと分野の関係、平面と立体などを総括していくと各部全体で議論していく必要があると感じました。
初めて工芸に関わる方、経験の浅い方は、工芸に対する基礎知識を自分なりに普段の中で習得していくことが大切です。文献を調べたり、名品と言われている作品を鑑賞したりすることも有効です。そのことによって作品に対する基準や、制作に対する様々な理解力が得られ成長していけると思います。このことはこれからの時代を背負う高校生にも言えることですね。
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「花筺(はながたみ)」
吉田正和(よしだまさかず)
編み込む竹材の幅・色に変化を持たせ、編み込みの紋様と色彩の紋様が絡み合うことで、独特な複雑さを持った紋様面と、それをシンプルな縦格子の側面が支えるように、絶妙なバランスで構成された、清々しく華やかな作品となっている秀作です。
作品の構想に合わせた竹素材作りから始められたと思います。竹工の高い技術を持ちながら、独自の構成まで計算し尽くして制作され、第72回埼玉県美術展覧会工芸部門最優秀作品として知事賞となりました。
■埼玉県議会議長賞
「糸目友禅染布「爛漫」」
福富崇(ふくとみたけし)
桜の花が風に靡くようなしなやかな枝に小気味良く配置、構成されていて、基調色のピンクがタイトルの「爛漫」を強く印象付ける秀作です。
本友禅染の糸目糊の技術も高く、タタキ糊を花弁・枝に、蒔蝋を下部の水紋に効果的に使用することで絵画的で奥行きのある魅力的な空間となっています。今後の展開をさらに期待しています。
■埼玉県教育委員会教育長賞
「森の住人」
のぐちイサム(のぐちいさむ)
大型の鋳造青銅製火鉢です。高い技術と経験に裏打ちされた造型がシンプルでありながら青銅(ブロンズ)の魅力と相俟って迫力ある存在感を示しています。もう一つの魅力は箆(へら)押しという技術による表面の文様です。リスが木の実を運び、熊の親子が遊ぶ森の情景が描かれています。作者が箆を片手に喜気として鋳型に向かっている様子が目に浮かぶ様で、力強さの中に微笑ましさのある作品となっています。
■埼玉県美術家協会賞
「花籃「夏濤(なつなみ)」」
大木淑恵(おおきとしえ)
長年、培われてきた竹工芸としての素材美と技術美を単刀直入に表現された、繊細かつダイナミックな作品です。
作品名にある「夏濤(なつなみ)」をそのまま連想し、海中から高く、大きく、うねり、また引き寄せる大濤を静と動で表現された秀作であります。今後の作品も期待しています。
■埼玉県美術家協会賞
「風通織着物 春の季」
渥美セツ子(あつみせつこ)
見た瞬間、春を感じさせる爽やかな色彩の美しさが伝わってきます。イエロー、ライトグリーン系の色を基調に縦緯の色糸の構成が絶妙な優作です。
風通織のテクニックも素晴らしく、特に縦糸のバイオレット・ブルー、緯糸オレンジの効果は作品の表現の質、完成度をさらに高めています。この着物に合う帯は、想像を掻き立ててくれます。
■埼玉県美術家協会賞
「梻拭漆「夕焼け」」
沖成哲太郎(おきなりてつたろう)
タモ材を使った櫓(やぐら)型の飾り箱です。
箱の横面に長く走る木目は、拭き漆をすることで引き立っています。よく見ると下方部周縁には菱形の木造嵌(もくぞうがん)が施されていて、ちょっとしたアクセントになっています。
全体的に木目を生かしたシンプルな美しい作品に仕上げられています。
■産経新聞社賞
「亜鉛結晶釉躑躅文鉢」
福地鉄也(ふくちてつや)
全体的に淡い色合いで統一させながら、採泥の濃度を調整することで花びらの繊細さを表現しています。また放物線状に構成された線文が躑躅文(つつじもん)を強調しています。
亜鉛結晶釉が澄んだ空気感を醸し出し、モチーフと調和した魅力を感じる作品です。
結晶状態は制作工程において、濃度や焼成中の温度管理によって左右される難易度が高い釉薬ですが、完成度が高く仕上げられています。
■高校生奨励賞
「旅と桜」
莊保愛真(そうほえま)
金工種別の鎚起(ついき)という技法を主に制作した蓋物作品です。題名から繋がるモチーフを器の装飾として作者の想いを伝えようと工夫したのでしょう。技術的には蓋物としての合わせにはまだまだこれからの勉強が必要です。一方で既成の蓋では思いつかないような透かし作業からの花部分の立ち上げという面白さもあります。
古典的な基礎技術も習得しながら、自分で浮かんだアイデアも加えて、さらに制作に励んでいただけたらと思います。
■埼玉県美術家協会会長賞
乾漆鮫皮塗「海想」
大上博(おおうえひろし)
この作品は天面から短側面にかけて、乾漆らしい緩やかな曲面をもち、合口にあたる手がかりに、アクセントをあたえた気品ある形態です。
加飾には長年手がけられている鮫皮塗を天面に施し、海中を想わせる神秘性を宿しています。長側面には、海中生物の営みを表現し、箱でありながら大空間を演出しています。
この度、挑まれた作品は委嘱者としてとても優秀な作品であることは間違いありません。
■高田誠記念賞
春爛漫
鈴木昭重(すずきあきしげ)
小型の鋳造製(ブロンズ)の作品です。用途は花活けかと思われますが、この作品の魅力は、宝塔などを思わせる造形も然ることながら、表面に施された赤色斑文です。朱銅と呼ばれるこの技法は、鋳造後、綺麗に磨きあげた作品に高温の熱処理をすることによって生まれます。一歩間違えると作品を溶かしてしまうことになる、熟練と経験を要する作業です。川口屈指の鋳物師(いもじ)の快作です。
第5部「書」
審査主任 加藤東陽(かとうとうよう)
今回の公募出品数は330点(昨年比-2)で、コロナ5類移行後の動向が注目されましたが、ほぼ昨年並みの結果に安堵いたしました。
若者の出品を促す方策として昨年度から「高校生奨励賞」を新設しましたが、募集要項にある「未発表の創作作品に限る」が高いハードルとなっていました。そこで今回展から第5部「書」部門において、「高校生等に限り臨書・模刻作品も可とする」方向になりました。その結果、将来性が期待され若さ溢れる力作が寄せられ、「高校生奨励賞」の受賞者を選出できたことは大変嬉しいことでした。
入選を決める審査は厳正かつ公平に行い、昨年同様の入選率63%である209点を決定しました。入選された皆さん誠におめでとうございます。
次に、特選10点を決定する審査を進めましたが、受賞候補にノミネートされていながら、誤字・脱字のために選外となった作品もあり、誠に残念な思いをいたしました。作品制作にあたっては、出品時に再点検すれば防げることです。くれぐれも文字確認を怠らないようお願いいたします。
さて、昨年12月に国の文化審議会は、ユネスコ無形文化遺産に提案する候補として「書道」を選んだと発表(決定は2年後)しました。これからは私達が一丸となって、文字文化(書道)を次世代へと伝承していく責任が一層強く求められてきます。
この県展も、文字文化の重要性を認識しつつその豊かさに触れる機会の一つとして、大きな役割を担っていると言えましょう。県展が一層充実し、発展していきますよう願ってやみません。
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「王漁洋詩」
近藤香照(こんどうこうしょう)
五言律詩を堂々とした筆致で表現した隷書作品です。字の上下間の空間を広く取り、尚且つ懐の広さも意識した字形としております。確かな筆遣いで整った形を実現しているのは、不断の真摯な学書の成果と言えましょう。筆力筆勢も充分で躍動感があり賞に相応しい作品となりました。
■埼玉県議会議長賞
「顧況詩」
齋藤青穂(さいとうせいすい)
的確な字形と洗練された線質とを礎に表現された淡墨作品です。鋭さと柔らかさを持ち併せた穂先の利いた筆線で書き込み、ゆったりとして、伸び伸びとした作品から心地良いリズム感の運筆が想像できます。見る者の心を捉える抒情溢れる作品は、格調の高さが覗えます。永い歳月の鍛錬の賜と思います。
■埼玉県教育委員会教育長賞
「春」
鈴木青穂(すずきせいすい)
山家集より11首の和歌を細字で構成した作品です。穂先の利いた冴えある線質で、墨色の変化により遠近感を作り出し、連山を思わせる穏やかな流れが叙情的雰囲気を醸しています。古筆を踏まえたこの作品は、練度高く品格があり、一行の線状に字幅の変化や遅速緩急の妙味があって行間の響き合いも見事です。
■埼玉県美術家協会賞
「清詩二首」
大澤美峡(おおさわびきょう)
羊毛筆と思われる筆を用い、濃墨で多字数を書き上げた練度の高い作品です。多字数作品では、行間の余白を生かすことが作品制作上大きな課題となります。この作品は行書、草書を巧みに配し、気負うことなく筆の開閉に任せて淡々と書き上げています。最後まで筆力と呼吸が一貫した見事な作品と言えます。
■埼玉県美術家協会賞
「遏雲繞梁」
島田素貞(しまだそてい)
漢印調の堂々とした白文印です。刀痕の切れ味鋭く四文字がバランス良く纏まっており、辺縁の処理にも味があります。また、側款の拓を添えたことで見応えのある作品としましたが、その拓に刻した印文を含めれば更に良かったかと思います。今後も篆文の研鑽を積まれた力作を期待いたします。
■埼玉県美術家協会賞
「盧照鄰詩」
真篠子香(ましのしこう)
五言律詩を巧みに表現した作品は、文字の大小・行間の余白・字形の自然な姿によって詩文を充分に表現した快作と言えます。線は深く重厚、そして緩急ある運筆はリズミカルに躍動し、充実した作品となっています。作者の情熱が伝わる溌剌とした作品は、見る者に感動を与えてくれます。
■さいたま市長賞
「峡」
橋本葉月(はしもとようげつ)
淡墨の少字数作品の場合、同じ文字でもその表現の仕方は様々です。この作品はたっぷり含ませた墨をゆったりとした大きな呼吸で書き出し、紙に食い込むような旁の一画目の線と、渇筆で勢いよく引いた最終筆で締まった作品になっています。左下と右側の空間が共鳴し効果的な作品に仕上がりました。
■さいたま市議会議長賞
「丁仙芝詩」
町田静苑(まちだせいえん)
先ず筆線の強さがこの作品の持ち味でありましょう。それが下へ下への行の流れを生み出しているものと思います。また、長い横画の独特な筆致が作品に情感を与えているのも見逃せません。各行の配字を含め全体構成に意識の高さを感じさせる作品になっています。
■テレビ埼玉賞
「姚揆詩」
髙橋雄喜(たかはしゆうき)
七言律詩の行草作品です。三行で書くには比較的字数が多いため、纏めるには相当の力量が必要となります。文字の大小や余白の活用により美しさを表現しています。線質は躍動感があり、一点一画を丁寧に書き上げた大胆さのある作品に仕上がりました。
■毎日新聞社賞
「送友人歸宜春」
小野田春穂(おのだしゅんすい)
大小疎密な変化を工夫した文字群が軽くうねるように連なり、そこに重厚な筆線を交えることで快いリズムの作品としています。余白の配置の巧みさが作品に余裕をもたらしていることも見逃してはいけません。今後の活躍を大いに期待したいと思います。
■高校生奨励賞
「臨 松風閣詩巻」
小柳夢湖(こやなぎゆめこ)
行書体で穂先の抑揚を利かせて力強く躍動する書線は、若さと自信が溢れる堂々とした作となっています。また、三行書きのリズムと余白は自然を愛でる黄庭堅の気持ちと、「松風閣詩巻」の特徴(句意など)を良く捉えており、見る者の心にゆとりを持たせる見事な臨書です。
■埼玉県美術家協会会長賞
「温庭筠詩」
増尾龍泉(ますおりゅうせん)
隷書は本来中国漢代に流行した装飾性の強い書体と言えましょう。この作品はその隷書体に扁平な字形を用い、やや無機質と思わせるような表情を抑えた線質の構成で、極めて現代的な雰囲気を醸し出しています。この個性的な作品を益々高められますよう願っております。
■高田誠記念賞
「春立つと」
菅谷志水(すがやしすい)
横への流れを感じる上品な料紙に、春秋の歌を絶妙に配し、間の取り方が見事です。清澄な線と美しい墨色の変化で、心地良い連綿のリズムを奏でます。穏やかでありながら、斬新で魅力的な作品に仕上げています。今後とも素晴らしい活躍を期待しております。
第6部「写真」
審査主任 加藤俊一(かとうしゅんいち)
第72回展は、応募総数993点、入選点数445点、入選率にして44.8%となりました。
今年度から審査員は7名となり、それぞれの負担は大きくなりましたが、例年通りに厳正な審査を実施しました。また、今年度も額からの写真の抜け落ちが多く、審査員等に必要以上に手間を掛けさせる結果となり、販売者側に取扱説明書を同梱させる等の対策を考慮する必要があると思います。
近年、肖像権や著作権が社会的に厳しくなり、写真界においても講習会等を通して頻繁に啓蒙活動をしております。それ故か県展も人物を扱ったスナップ写真(特に顔が判明するような)が少なかったように思います。それでも作者に確認の電話を入れますと、ほとんどが承諾を得て撮影していることに感心しました。是非今後も社会的ルールを守りながら写真を楽しみ、さらに県展に応募していただければ嬉しく思います。
※受賞作品をクリックしますと拡大画像が表示されます。
「夢想」
西田浩子(にしだひろこ)
4枚の異なるモチーフの写真を一つのイメージで組み合わせることで、統一感と相乗効果を得ています。模範的な組写真と言えるでしょう。4枚の写真それぞれの絵柄や組み方も素晴らしく、特に最後に、揺れる藍色の水面に筆で描いたような光を入れることによって、それまでの写真を見事に「夢想」というイメージでまとめた手腕は見事です。
■埼玉県議会議長賞
「郷愁」
宇南山篤(うなやまあつし)
茶色く朽ちかけた建物や身の回りの遺物一つ一つに作者の思い出があり、郷愁を感じるのでしょうか。それにしても壊れかけた板の向こうに見える鶏や捕虫網はなんなのでしょうか。私はまだ朽ちてない、生きていると言おうとしているのでしょうか。作者にとって進行形の「郷愁」なのかも知れません。
■埼玉県教育委員会教育長賞
「新しい後継者」
張替政雄(はりかえまさお)
よく手入れされた機器や加工された材料の中で、新しくこれからの物を作って行こうとする若い女性の意気込みが静かに伝わってくるようです。伝統的な機械類の色合いと、カラフルな塗料や女性の赤い作業服との対比が、「新しい後継者」というテーマにふさわしい効果を与えています。
■埼玉県美術家協会賞
「二十歳の喜び」
深谷光夫(ふかやみつお)
成人式を迎え着飾った二人の頭に「20」の風船。さらっとこのようなミニイベントを考え、写真の演出をするところが今時の女の子らしいですね。背景のボケ具合も的確で、着物の柄の邪魔をしていません。二人の表情も良く、これからの二人の幸せを願わずにはいられません。
■埼玉県美術家協会賞
「近未来都市」
関根登(せきねのぼる)
地上部の幾重ものブルーの光跡ラインとそこに群がる人々が暗闇に浮かび上がり、夕景に向かって集約していくようです。地上部と夕景の配分が9:1に近く、大胆な構成比といえましょう。俯瞰したカメラポジションも的確で、作者の技量の高さが伺い知れます。
■埼玉県美術家協会賞
「未来へ向かって」
花田寛子(はなだひろこ)
夕方でしょうか。工事現場の白い塀にリュックを背負った女性や標識がハッキリと影を落としています。塀の向こうにはやや雲の多い青空と巨大なクレーンや杭打ち機。この塀の向こうにやがて大きな建物が建つのでしょう。作者は、めまぐるしく変貌する街や社会に向かって真っ直ぐ歩く女性の先に、新たな未来を見たのでしょう。
■埼玉県美術家協会賞
「愛しき君」
伊藤春子(いとうはるこ)
雀が様々な表情をしています。まるで毎日雀と暮らしながら写真を撮っているかのようです。
枝や蓮花などの上で、首をかしげたり、うなだれたり、時には遠くを見ているかのようなユーモラスな表情を見せてくれます。背景にあるものや身近にあるものをうまく使って、雀の日常を愛情を持って写しています。
■さいたま市長賞
「お昼頃」
斉藤一男(さいとうかずお)
ご夫婦でしょうか。休憩を終えてこれから出発しようとする二人の仕草が、どこかとぼけた感じで面白いです。それぞれの動きの違いも、長年連れ添ってきた自然さが身についているようです。背景の藤や子供たちの絵も、仲の良いご夫婦を演出しているかのようです。
■さいたま市教育委員会教育長賞
「最後の最後に」
西本みどり(にしもとみどり)
1位になる瞬間に転んでしまう…。なんと声をかけたらよいのでしょうか。走者のゼッケンがカラフルで、悲劇的瞬間が明るく爽やかな映像となりました。動く被写体の割に画面構成がうまく、背景も含めて無駄のない写真となっています。
■NHKさいたま放送局賞
「がんばれじいじ」
鈴木建治(すずきけんじ)
神輿を担ぐ大人たちの中に自分のじいじを見つけた孫に、じいじは手を挙げてこたえています。コロナ禍が収まっていない時か、皆マスクをして担いでいます。神輿を担ぐ人は若者ばかりでなく、皆必死ですが、このような状況でも祭りを決行した地域愛に、子供も喜び勇んで駆けつけたのかも知れません。
■読売新聞社賞
「瞳」
清水芳明(しみずよしあき)
大人の間に挟まれながら真っ直ぐにこちらを見つめている子供の目力が強く、力のある映像となっています。汗で濡れたようになっている髪の毛も効果的でした。「瞳」と書いて「どう」と読ませる作者の思いが映像から伝わってきます。セピア調のプリントも作品とマッチしていると思います。
■テレビ埼玉賞
「海を見守る六地蔵」
齋川春江(さいかわはるえ)
潮満ちる中で海を見つめる赤い装束を着けた6体のお地蔵様。泡立つ海に倒れはしまいかとその傾き具合に心配になるお地蔵様もいるように見えます。青い空と海、赤い装束のお地蔵様はどこから見ても目立つ存在で、12の目で海を見守り、海に携わる人々の安寧を願っているのでしょう。
■高校生奨励賞
「私だけが見ている世界」
藤澤祐希(ふじさわゆうき)
日常の片隅にある何気ない事物を作者らしい独自の視点で再構築しています。事物に付けた新しい呼び名は決して突飛ではないですが、それ故我々も新名称に納得し、時には新しい視点に気づかせてくれます。このような映像を作り続けて、さらなる藤澤ワールドを見せてください。
■埼玉県美術家協会会長賞
「持光寺参道」
小谷和己(こたにかずみ)
踏切の先に長いお寺の階段があり、わずかにオレンジ色にライトアップされています。踏切近くの階段は、信号機の光を受けてブルーに変化しています。信号機の黄色と合わせて、とてもカラフルで美しい景色が毎夜繰り広げられています。それにしても、階段でつまずいて踏切まで突入することはないのでしょうか。
■高田誠記念賞
「司宰」
益子早苗(ましこさなえ)
古い石造りの建物は教会なのでしょうか。まるでスーパーマーケットからの帰りのようにビニール袋を持って歩いている司宰からは威厳が感じられません。しかし、本来僧侶とは質素で、この司宰こそ現代の僧侶と言えるのかも知れません。真昼の撮影で様々な石を組んだ教会に重厚さが感じられないのも、この写真では正解なのかも知れません。